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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)182号 判決 1976年4月14日

東京都中央区日本橋馬喰町一丁目七番一二号

原告

株式会社旅粧高橋製作所

右代表者代表取締役

高橋佐久三

右訴訟代理人弁護士

水上喜景

菅谷幸男

東京都中央区日本橋堀留町二丁目五番地

被告

日本橋税務署長

右指定代理人

岩渕正紀

小川修

波多野昇

石川新

管野俊夫

主文

一、被告が昭和四七年一月三一日付でした原告の昭和四三年七月一日ないし昭和四四年六月三〇日のの事業年度の法人税更正のうち、欠損金八、三〇一、九一六円を超える部分の無効確認を求める請求に係る訴えを却下する。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告が昭和四七年一月二七日原告の昭和四二年九月一日ないし昭和四三年六月三〇日の事業年度以後青色申告の承認を取り消した処分が無効であることを確認する。

2  被告が昭和四七年一月三一日原告の昭和四二年九月一日ないし昭和四三年六月三〇日の事業年度の法人税についてした更正(三次)及び重加算税賦課決定が無効であることを確認する。

3  被告が昭和四七年一月三一日原告の昭和四三年七月一日ないし昭和四四年六月三〇日の事業年度の法人税についてした更正(四次)のうち、欠損金八、三〇一、九一六円を超える部分が無効であることを確認する。

4  被告が昭和四七年一月三一日原告の昭和四四年七月一日ないし昭和四五年六月三〇日の事業年度の法人税についてした更正及び重加算税、過少申告過算税賦課決定が無効であることを確認する。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二、原告の請求原因

一、原告は、皮革製品の製造及び卸売等を業とする株式会社であるが、昭和四二年九月一日ないし昭和四三年六月三〇日の事業年度(以下「昭和四二年度」という。)、同年七月一日ないし昭和四四年六月三〇日の事業年度(以下「昭和四三年度」という。)及び同年七月一日ないし昭和四五年六月三〇日の事業年度(以下「昭和四四年度」という。)の法人税について、青色申告書によりそれぞれ別表一記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、昭和四七年一月二七日昭和四二年度以後の事業年度について青色申告の承認を取り消したうえ(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)、右各年度の法人税について別表一記載のとおり更正(昭和四二年度については更正(三次)、昭和四三年度については更正(四次)。以下それぞれ「昭和何年度更正」といい、これらを合わせて「本件各更正」という。)及び昭和四二年度につき重加算税賦課決定を、昭和四四年度につき重加算税、過少申告加算税賦課決定(以下「本件各決定」という。)をした。

二、本件青色申告承認取消処分には重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。すなわち、右処分に係る通知書には「貴法人の青色申告の承認は、次の事実が法人税法第一二七条第一項第三号に該当するので自昭和四二年九月一日至昭和四三年六月三〇日事業年度以後これを取消したから通知します。(取消処分の基因となつた事実)法人所得の一部を除外して裏預金を設けている。」と記載されている。しかし、右の記載だけではいかなる根拠、資料に基づき裏預金と認定したかが全く不明であるから、このように抽象的な理由だけでは理由を付記しないのと同視すべきである。のみならず、裏預金を設定していないことも明白であるから、本件青色申告承認取消処分には重大かつ明白な瑕疵があるといわなければならない。

三、本件各更正には次に述べる重大かつ明白な瑕疵があるから、いずれも無効であり、したがつて、本件各更正を前提としてされた本件各決定も無効である。

(一)  本件青色申告承認取消処分は無効であるから、本件各更正に係る更正通知書には更正の理由を付記しなければならないところ、本件各更正に係る更正通知書には、いずれも更正の理由が付記されていないから、本件各更正は無効である。

(二)  被告は、次の預金を原告の預金と認定して本件各更正をした。すなわち

1 昭和四二年度

別表二(1)記載の富士銀行根津支店及び大和銀行浅草橋支店の架空名義等預金の当該年度における増加額の合計八、一七三、〇二三円のうち、昭和四三年一月三一日富士銀行根津支店に大出名義で設定した通知預金五、〇〇〇、〇〇〇円を除外所得(所得から除外して設定したものをいう。以下同じ。)と、右八、一七三、〇二三円から右五、〇〇〇、〇〇〇円を控除した残額を受取利息計上もれと認定した。

2 昭和四三年度

別表二(2)記載の富士銀行根津支店及び大和銀行浅草橋支店の架空名義等預金の当該年度における増加額の合計四九四、〇四二円を受取利息計上もれと、昭和四四年二月七日滝野川信用金庫赤羽支店に石川名義で設定した領金五〇〇、〇〇〇円を除外所得と認定した。

3 昭和四四年度

別表二(3)記載の富士銀行根津支店、大和銀行浅草橋支店及び滝野川信用金庫赤羽支店の架空名義等領金の当該年度における増加額の合計二、七六〇、九五五円を受取利息計上もれと、昭和四五年三月一一日富士銀行馬喰町支店に多田名義で設定した預金二、〇〇〇、〇〇〇円を除外所得と認定した。

4 しかしながら、右の預金(以下「本件預金」という。)はいずれも原告代表者高橋佐久三ないしはその妻に帰属する預金であり、原告に帰属する預金でないことは明白である。

すなわち、高橋佐久三は、昭和二七年ころから昭和三七年ころにかけて個人で手形割引等を行い、数千万円の個人資産を有していた。その一部は訴外吉本暉章に貸付けられ、昭和四三年一月二〇日五、〇〇〇、〇〇〇円、昭和四五年三月八日二、〇〇〇、〇〇〇円がそれぞれ返済され、前記大出、多田等の名義で預金されたものである。また、高橋佐久三の妻も年額七二万円の給与所得を有していたから、本件預金は同人らの個人所得を蓄積したものにほかならない。しかるに、被告は、これを原告の預金と認定し、右認定を前提として本件各更正をしたから、本件各更正には重大かつ明白な瑕疵がある。

第三被告の答弁及び主張

一、被告の答弁

原告の請求原因第二の一の事実は認める。同二のうち本件青色申告承認取消処分に係る通知書に原告主張の記載のあることは認めるが、その余は争う。同三の(一)のうち本件各更正に係る通知書に更正の理由が付記されていないことは認めるが、その余は争う。同三の(二)のうち1ないし3の理由が本件各更正の理由となつていること及び同4のうち高橋佐久三の妻の給与所得の額は認めるが、その余は争う。

二、被告の主張

(一)原告の請求原因第二の二について

本件青色申告承認取消処分に係る通知書の記載からみて、同通知書は法人税法第一二七条第二項の要求する理由付記の程度を充分に充足しているものというべきである。仮に理由の付記が不充分であるとしても、そのような瑕疵は重大かつ明白なものではないから、これによつて右処分が無効となるものではない。また原告が裏預金を設定していたことは後記(三)記載のとおりである。

(二)  原告の請求原因第二の三の(一)について

本件青色申告承認取消処分に伴い昭和四二年九月一日以後は、原告が提出した青色申告提出の承認に係る青色申告書は青色申告書以外の申告書とみなされ、法人税法第一三〇条第二項の規定の適用はないから、本件各更正に係る通知書には更正の理由の付記を要しない。

(三)  原告の請求原因第二の三の(二)について

原告主張の預金は、いずれも原告の簿外預金であるから、本件各更正に違法はない。すなわち、

1 被告は、調査の結果本件預金のほか、昭和三七年三月以前に預け入れられた架空名義等預金五、五八〇、〇〇四円(昭和四五年六月三〇日現在の残高)、高橋佐久三及びその家族名義の預金(以下「実名預金」という。)三七、三〇三、二二一円(同日現在の残高)の存在を確認した。被告所部の係官は、高橋佐久三に対してこれらの預金の資金源について説明を求めたところ、同人より右預金は、同人が昭和二七年ころから昭和三七年春までの間、個人で金融業を営んでいた当時の貸付利息収入及び貸付元金からなるものである旨の申述があつた。しかし、同人は、昭和二五年から昭和三五年まで旅行ケース等の問屋有限会社高橋佐久三商店を営み、同年九月からは原告会社を経営しており、また原告に対し右申述を裏付け得るに足る資料の提示を求めたがその提示もなく、高橋佐久三の当時の所得税の確定申告書においても金融業の収入の申告は全くされていなかつた。

2 そこで被告は、高橋佐久三及びその家族の昭和三四年以降の収入の状況及び家計支出等の状況をそれぞれ調査し、それに基づき同人らが毎期最大限度どれだけの額の預金をすることが可能であるか(以下その額を「預金可能所得額」という。)を算出し、右預金可能所得額から見て、同人らが本件架空名義等の預金を設定し得るか否かを検討したところ、本件預金はおろか、実名預金の分についてすら、その全部を設定することは不可能な状況であることが判明した。そこで被告は、前記原告の申述等をも考慮し、昭和三七年三月以前に設定している架空名義等の預金及び実名預金を除いた本件預金を簿外預金と認定したものである。したがつて、右の認定に誤りはなく、本件各更正に重大かつ明白な瑕疵はないといわなければならない。

第四被告の主張に対する原告の認否

第三の二(三)1の事実は認める。その余は争う。

第五証拠関係

一、原告

(一)  提出、援用した証拠

甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし四、第六号証及び証人吉本暉章の証言並びに原告代表者本人尋問の結果

(二)  乙号証の成立の認否

乙第一号証の成立は認める。

二、被告

(一)  提出、援用した証拠

乙第一号証及び証人浜田実俊の証言

(二)  甲号証の成立の認否

甲第一ないし第三号証及び第五号証の一、二の成立は知らないが、その余の甲号証の成立は認める。

理由

一、まず、昭和四三年度更正の無効確認を求める訴えの適否について判断する。

原告が昭和四三年度の法人税について、その所得金額を一、〇一六、一四九円とする確定申告をしたところ、被告が欠損金一一、〇〇三、二四六円とする更正(四次)をしたことは、当時者間に争いがない。しかして、更正が不利益処分に当るか否かは、当該更正により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきところ、右更正は、原告の申告に係る納付税額を減少させる更正であるから、不利益処分に当たらないことは明らかである。したがつて、原告は、右更正の無効確認を求める利益を有しないものというべきである。よつて、右更正の無効確認を求める請求に係る訴えは不適法である。

二、原告の請求原因第二の一の事実(昭和四三年度更正に関する部分を除く。)は、当事者間に争いがない。そこで、本件青色申告承認取消処分に原告主張の無効事由が存するか否かについて判断する。

右処分に係る通知書に原告主張の記載のあることは、当事者間に争いがない。しかしながら、たとえ右の記載では理由の付記が不充分であるとしても、その瑕疵は、右処分を無効ならしめる重大な瑕疵ということはできず、単に取消事由となるにすぎないというべきである。また後記三(二)認定のとおり原告が裏預金を設定していないことが明白であつたとはいえないから、この点についても無効原因は存しない。したがつて、原告の右主張は理由がない。

三  次に、・昭和四二年度更正及び昭和四四年度更正並びに本件各決定に原告主張の無効事由が存するか否かについて判断する。

(一)  更正通知書の理由付記の欠如について

右各更正に係る更正通知書に更正の理由が付記されていないことは、当事者間に争いがない。

しかしながら、原告は、本件青色申告承認取消処分により昭和四二年九月一日以後は、原告の提出した青色申告提出の承認に係る青色申告書は青色申告書以外の申告とみなされるから(法人税法第一二七条第一項後段)、同法第一三〇条第二項の規定の適用のないことは当然であり、更正通知書に更正の理由の付記を要しないことはいうまでもない。よつて原告の右主張は理由がない。

(二)  本件預金の帰属の誤認について

1  原告の請求原因第二の三の(二)1及び3の理由が右各更正の理由となつていることは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第一号証及び証人浜田実俊の証言を合わせると、

原告の法人税調査を担当した被告所部の係官浜田実俊は、原告の原告代表者高橋佐久三からの借入金約一二〇〇万円導入の経過を追及し、昭和四六年二月三日高橋佐久三から裏預金は一切なくもしあれば原告の売上げを除外したものと認定されて結構である旨の念書を徹求したこと、次いで原告の主取引銀行である富士銀行馬喰町支店を調査したところ、原告の簿外預金と思われる多額な架空名義等預金が発見され、さらに同支店の調査を端緒として同行根津支店、大和銀行浅草橋支店、滝野川信用金庫赤羽支店、平和相互銀行浅草橋支店等を調査したところ、本件預金のほか、昭和三七年三月以前に預け入れられた架空名義等預金五、五八〇、〇〇四円(昭和四五年六月三〇日現在の残高)実名預金三七、三〇三、二二一円(同日現在の残高)の存在が確認されたこと(これらの預金の存在については、当事者間に争いがない。)、同係官は高橋佐久三及びその家族の確定申告状況、所得状況を調査し、預金可能所得額を計算したが、実名預金ですら預金可能所得額を超えていることが判明したことが認められ、右認定に反する原告代表者本人尋問の結果は前掲各証拠に対比して採用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2  被告所部の係官が高橋佐久三に対してこれらの預金の資金源について説明を求めたところ、同人より右預金は、同人が昭和二七年ころから昭和三七年春までの間、個人で金融業を営んでいた当時の貸付利息収入及び貸付元金からなるものである旨の申述があつたこと、しかし、同人は、昭和二五年から昭和三五年まで旅行ケース等の問屋有限会社高橋佐久三商店を営み、同年九月からは原告会社を経営していること、原告に対し右申述を裏付け得るに足る資料の提示を求めたがその提示もなく、高橋佐久三の当時の所得税の確定申告書においても金融業の収入の申告は全くされていなかつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

3  浜田証人の証言によれば、以上のような状況から被告は、確実を期するため、昭和三七年三月以前に預け入れられた架空名義等預金及び実名預金を除外し、本件預金のみを原告の簿外預金と認定し、昭和四二年度更正及び昭和四四年度更正をしたことが認められる。

4  これに対し、証人吉本暉章の証言により真正に成立したと認められる甲第一号証、原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証には、高橋佐久三が訴外吉本暉章から昭和四三年一月二〇日五、〇〇〇、〇〇〇円、昭和四五年三月一一日二、〇〇〇、〇〇〇円の返済を受けたこと、昭和四四年二月七日滝野川信用金庫赤羽支店に預け入れた五〇〇、〇〇〇円の預金は高橋佐久三の妻の預金である旨の記載があり、吉本証人の証言及び原告代表者本人尋問の結果中にはこれにそう供述部分もある。しかしながら、右各証拠自体その信憑性が疑わしいのみならず、浜田証人の証言に照らせば、右各更正時の調査に際し、原告より右書証の提出のなかつたことは勿論、右のような申述のなかつたことも明らかである。

5  以上認定した調査の経緯に照らせば、右各更正当時本件預金が原告の主張するように、高橋佐久三ないしはその妻の預金であることが一見明白であつたとは到底いえないから、右各更正に原告主張の無効原因は存しないというべきである。したがつて、本件各決定にも原告主張の無効原因はないというべきである。

四  よつて、原告の昭和四三年度更正の無効確認を求める請求に係る訴えは不適法であるからこれを却下することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 時岡泰 裁判官 青柳馨)

別表一

<省略>

△印は欠損金

別表二

(1)

<省略>

(2)

<省略>

(3)

<省略>

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